十数年前、歯科インプラントが日本で徐々に広められた頃に比べると、今日の歯科インプラントに対する見方は隔世の観がある。当時の研究や臨床がおもに臨床家を中心として活動していたことに比べ、現在のインプラント研究は大学を中心とした教育機関において基礎的研究が充実してきており、とりわけ骨や周囲組織の病理組織学的研究や材料と生体の界面をめぐる生化学的研究、歯科理工学的研究も、インプラントのデザインや素材の選択に1つの確立した理論を与える結果となってきたことは大きな進歩である。
また、臨床面からは骨の治療をめぐる生体のメカニズムについては細胞レベル、分子レベルでの考え方が、理解されるようになり、一般医科における整形外科方面等で行われている手法なども取り入れられることによりきわめて精巧なシステマチックなインプラント埋入術が開発されてきた。
歯科インプラントは毎日の食生活において継続的にかかる咬合力をいかにコントロールし、口腔内という厳しい環境の中で長く機能させ続けていくかということがもっとも重要な問題であるが、これについてもインプラントにかかる応力の問題であるが、これについてもインプラントにかかる応力の問題についての知見を深めてきた。
臨床補綴の面からは欠損状態やインプラントの負担能力に応じたさまざまな設計が考案され、そぞれの欠損様式に応じたカテゴリーを分析して臨床応用上の基準が臨床家の経験をもとに示されている。 咬合運動と広義にみた場合の全身とインプラントのかかわりあいについてもさまざまな知見が提示され、患者の歯科的健康にインプラントが生涯にわたり、いかに利用されていくべきかという問題についても新たな視点が要求される時期となった。インプラント十数年の歴史の中で、暗中模索してきた臨床家のさまざまな症例から得られてきた貴重な経験が真に重要な意義をもつに至ったということかもしれない。これまでの症例について一定の科学的基準に従った分析も重要な作業であり、その整理された情報は次世代のインプラント臨床に大きな模範を与えることになろう。
このような経緯を通して、今後の評価基準が臨床の中で定着することは、とりもなおさず歯科インプラントが日常一般臨床の中に定着することにつながる基礎となろう。基礎、臨床ともに格段の進歩、発展のある分野となりつつあるが、国内ではこれらの技術を実践する歯科医師の教育面については、最近いくつかの大学において、インプラントの研究と臨床の両面に積極的なアプローチが行われ、インプラント診療科が創設された。しかしアンダーグラデュエートの教育面においては補綴や口腔外科の講義で一部とり上げられているのが実情であり、今後の改善が待たれる。
ロマリンダ大学(アメリカ)では1992年に口腔インプラントセンターが開設され、国内外のインプラントロジスト公認の研修システムが開始された。ピッツバーグ大学ではインプラントプロジェクトチーム(補綴、外科、歯周病学)が総合的なインプラント診療と一貫した卒後研修システムを組んでいる。日本においても今後、インプラントについての幅広く、基礎に立脚した総合的な研修システムを学会や教育機関が中心となって行い、公正な観点からそれぞれのインプラント法についての予後調査などが体系的に行われ、より安全で確実なインプラントの発展に歯科界全体でとり組むことが急務である。 |